2012年5月16日水曜日

05seminar(Mrs.Nakajima)


 

 

日本人・韓国人シニアを対象とした社会福祉・医療サービス ニーズ調査

研究の目的と主題:

 このリサーチの主要目的は、ワシントン市内・郊外に住む 日本人高齢者がどのような社会福祉・医療サービスを必要としているかを調査することにある。ワシントン周辺において活動を続けている、ジャパニーズ・アメ リカンズ・ケアファンドとさくら協会の協力を得て情報が収集された。

ワシントンメトロポリタン地域では、急激にアジア人の人口 が近年増え続けている。2002年の全米国勢調査報告書によれば、1990年から2000年にかけてアジア人人口は53%増加している。全米を通して他の アジア民族は(例:韓国人、中国人、ベトナム人等)一般に地域的に集中して住むパターンが見られるが、ワシントンDC周辺地域においてもこのような傾向が報告されている。例え ば、ワシントンDCの北部に位置するハワード郡では、韓国人の人口が過去15年間に急激に増加している。韓国人は、優れた学校区を選んで、親族で移住する 傾向があるため人口が飛躍的に増加したと見られている。それに較べると日本人はワシントン周辺に広域にわたって在住し、他のアジア人とは異なった傾向を見 せている。

ワシントン周辺に在住する日本人シニアについての人口統計 を見ると、55歳以上の日本人は、男性、女性、共に約2700人と推定されている。国勢調査によると60歳以上で一人暮らしの日本人世帯は、およそ500 戸。また、報告書によると、日本人高齢者は比較的裕福で、低所得のアメリカ人高齢者が受託する老人福祉補助金(SSI)、補助健康保険 (Medicaid)、食品クーポン券等(Food Stamps)などの公的援助を必要としない人が多いと見られている。

 調査のデータ収集のために、2004年秋から冬にかけて 4つのグループインタビューがおこなわれた。日本人シニア, 介護経験者、又は、日本人コミュニティのリーダーの方々に インタビューに参加していただいた。会場では介護現場の現状や高齢者課題をめぐり活発に議論が展開された。「自立」や「社会参加」をキーワードに大きく変 わろうとしているのが新世紀の高齢者福祉の特徴であるが、リサーチ参加者の意見もそのような希望を強く反映していた様だ。

 

社会福祉、高齢者福祉全般におけるこのリサーチの意義:

○ 全米を通して老人福祉の分野では、アジア系高齢者はリ サーチにあまり参加しないことで知られている。このグループのデータ不足が学会や連邦政府の報告書で指摘されている。結果として米国政府、または地方行政 機関はアジア系高齢者が直面する社会的問題や心の悩みについての知識が乏しい。


thoamの痛み

○ アジア系高齢者を対象とし、文化的特徴を考慮した医 療、または社会福祉サービスが十分提供されていないと指摘されている。日本人の人口の多いロサンジェルス、シアトル、シカゴなどの大都市でも、日本人高齢 者、または介護者から苦情が寄せられている。

○ 米国衛生保健管理局(NIH)では、10年位前から、 アジア系、または他の少数民族の高齢者病の病原,健康管理等に関しての調査を大いに推進していくことを提案している。

 インタビューでは約90分間から2時間にわたり、心身と もに豊かな高齢社会の創造を目指すという課題を中心に活発に意見が交換された。ここにインタビューで話題になった内容についてまとめてみる。

 

1.ワシントンDCに在住する日本人高齢者の特徴

 

○ 他のアジア人高齢者と比較するとワシントンDC周辺に 住む日本人シニアはアメリカ生活にかなり順応している。生活様式は日本式とアメリカ式をうまくミックスしているが、アメリカ的暮らしが快適だと思って日常 生活を送っているシニアが多い。食生活のうえでは、断然和食派が多い。

○ 他の日本人一世と交流はあるが、毎日のように会ったり 一緒にグループ生活を送ろうとは思っていない。{グループ活動を日常的に送っている韓国人とは対照的に}、日本人シニアは、元気で健康に独立して暮らして いる間は欧米式の個人的主義生活を好む。

○ アメリカで生まれた日本人2世のシニアと、渡米してア メリカに長年住んでいる日本人シニアとの間の交流はほとんどない。

○ インタビューに参加した日本人シニアの成人した子供た ちは主に国外や他の州で暮らしている。そのため平常生活での行き来は少ない。電話や電子メールでの連絡はよくあるが、他のアジア人グループと比較すると、 あまり家族に頼らず、独立した生活を高齢になっても送っており、自立をなんとしてでも保持して年金生活を送りたいという希望が特に強い。成人した子供や孫 に対しては、将来介護してもらおうという期待は少ない。

○ 健康、退職生活、生活の質に関する情報に関心度がとて も高く、積極的に友人、家族、インターネットから情報を得ている。情報は、英語、日本語と両方熱心に読むシニアもかなりいる。女性を中心に情報交換のネッ トワークもところどころにある。

○ 情報交換のネットワークは、困った時に頼れる友人の互 助会でもあり、心の支えにもなる。

○ 多数の日本人シニアは、日本人団体の主催するイベント などを通して、若い世代と交流を図るように努力している。

○ ボランティア活動に興味のある人が多い。

 


ジェファーソン大通りフォールスクリークの水

2.DC日本人シニアの高齢者生活設計において不安な点

 

1)将来の介護計画をどう立てていけばよいかという疑問と 不安。

‐ アメリカの老人福祉サービス、法律、またはシステムは 理解しにくく、とっつきにくい。困ったときに、誰に相談してよいかよくわからない。

‐ アメリカの病院、またはクリニックはシステムが複雑で 使いにくい。健康保険がややこしい。日本の健康機関のほうが使いやすいという理由で、日本で検査を受けたり、治療するクリニックを探す人もいる。米国医療 システムの中では英語で専門用語を使って交渉できないとこぼす人もかなりいる。

‐ 子供に頼らず、自分でできるだけ長く独立生活を続けよ うと望んでいるが、いざという時にどんな在宅サービスがあるのかわからない。

‐ 老人ホームへの入居計画はどのように立てていけばいい のかわからない。アメリカ式の老人ホームは利用したくないと考えている日本人のシニアや介護者が圧倒的に多い。

‐ リタイアメント・センター(高齢者マンション)への関 心が高く、最近入居する日本人が増えているが、入居費が一般に高く、何を目安として質のよい業者を選んでよいかわからない。最近リタイアメント・センター のツアーを希望しているが、入会についての手続きがわからない。

‐ 介護計画を友人と話したり、専門家と個人的に相談する 機会があまりない。内容が暗いので、話題として避ける人が多い。

介護施設(老人ホーム)についての思惑

‐ 日本人が集まって住む老人ホームを望む声と、それは必 要ないという声と半々。

‐ いつ思い切って老人ホームに入居すべきかという、タイ ミングがわからない。後に後悔の残らない介護施設を選ぶ自信がない。何を基準にして選べばいいかわからない。友達との情報交換のみに頼りがち。

 

2)心のケアの問題−孤立せずに生きがいを持ち続けて生き ていけるかどうかという不安。

‐ 病気がちなシニアと介護者の苦しい気持ちを理解し支援 する体制があまり整っていない。DC周辺には,日本人のカウンセラーがまだまだ不足している。 その中でも、高齢者心理学を専門にする者はまれ。

‐ 英語でのカウンセリングは苦手。英語で十分に気持ちを 表現する能力に欠け,日本人の心情はアメリカ人ではわからないだろうという疑念。 

‐ 日本人シニア同士でいつでも自由気ままに集まれるよう な社交サロンがほしい。その場で情報交換,互助会の運営をしてほしい。

 


どのような道は滝、ペンシルバニア州RR1です

グループディスカッションで示された疑問、不安に答えて、 下記に提案要綱をまとめてみる。

 

1.介護計画の充実

* インフォメーション・クリアリングハウス(情報交換セ ンター)の設定。日本人シニア・介護者は日本人グループのネットワークに頼って介護計画を立てる傾向がある。この特徴を使って、リタイアメント・コミュニ ティー、在宅サービス等についてのさらに詳しく正確な情報を提供できるシステムを整える。

* 在宅介護アドバイスの充実。一人暮らしをしているシニ ア、又は、在宅介護を支援している家族への助言 システムの充実。このような社会老人福祉分野の専門知識に 関してのアドバイスは、日米の文化差を理解し、アメリカのシステムに熟知したプロフェッショナルの助言を求めることが大切。日本人コミュニティーの中で多 様なセミナーをこれからも継続していくことに努める。

* リタイアメント・コミュニティーとの提携。このような 施設は生涯ケアを目標としているので、後に体が虚弱し、介護がかなり必要となった場合には、同じ敷地内にある介護センター(アシスティッド・リビング又は、老人ホーム)にアパートから移ることができる。日本人シニアを親身に なってケアしてくれるリタイアメント・コミュニティーを探し、団体交渉を計る。

* アシスティッド・リビング施設との提携。この施設は、 以下のようなサービスを提供する介護施設で、あまりケアを必要としない高齢者であれば、普通の老人ホームよりずっと快適に暮らしが営める。

☆ 36524時間、看護士が常駐。

☆ 清掃、洗濯、リネンの交換、買い物代行、薬の処置。

☆ 入浴、食事、移動の介助。

☆ 身辺介助 (衣類の着脱、身だしなみ、歯磨きなど、入居者各自の必要 に応じた身の回りのお世話)。

☆ 夜間巡回。

 

2.心のケアの充実

* 日本人専用のシニアクラブ発足の提案。アメリカのシニ アセンターに似た形式で、気軽にいつでも立ち寄れる場所の設立を長期間目標として実現する。ゆったりくつろげる楽しい環境を提供できるスペースを探し、高 齢者福祉に通じた日本人コーディネーターを募集、訓練して、経営する。レクリエーション・ルーム、キッチン、交流スペース、ボランティア室などをもうけ る。生きがい・ふれあい・生涯教育・遊びを主旨として、利用者に充実した楽しい時間を過ごしてもらうことを目標にする。 


* 同じ境遇の人と助け合う会を結成。シニアのボランティ ア組織を作り互助会として発足する。日本人のシニアで子供がDC周辺にいない場合は、遠くに住む家族に迷惑をかけるより、 他の日本人シニアと頼りあって生活していきたいという希望から。

* 体が弱って孤立しがちな高齢者の孤独感を緩和するため に、日本人のカウンセリング専門家、ボランティアの充実をはかる。心の痛みを少しでも共有することが、カウンセリングの目的。

 

  このリサーチの目的はDC周辺に在住する日本人高齢者 の間に存在する社会福祉・医療のニーズを明らかにし、研究結果を高齢者の生活の質を高めるために努力に取り組む政府、民間機関に提供し、将来計画を提案す ることであった。アメリカ老人社会福祉の基本理念は個人の自由尊重、尊厳の確立、地域に開かれた施設の運営、またはサービスの提供を目標とする。さらに、 日本高齢者福祉の鉄則である敬老精神と助け合いの心を大切にする信条をも含めて、日本人シニアを対象とした福祉を充実していくことがワシントン日本人コ ミュニティーの21世紀の課題のひとつになるかと思われる。在宅福祉を中心に、一人ひとりが自由で、安心・安全をモットーに暮らせる生活を応援することが 日本人シニアの生活の質を徐々に高めていくことにつながると確信している。

 メリーランド大学の福祉学部は地域社会と協力、提携する ことを重視し、その方針に基づいて教授陣は数々のリサーチを地域社会奉仕として行っている。研究結果は政府機関、非利益団体・組織に常時報告されている。 自身の研究方針としては"地域社会に溶け込んだ活動"を信条とし、老人社会福祉に関するリサーチ活動をボルティモア・ワシントン周辺で地道に継続していき たい。これからも研究者・教育者として社会的使命・任務の自覚を持って、地域福祉へ貢献すべく日本人地域社会と積極的に協力し合い、豊かな高齢化社会造り に努めたいと考えている。ジャパニーズ・アメリカンズ・ケアファンドとさくら協会の皆さんには「自立」そして「社会参加」を合言葉に、高齢者の尊厳を推進 する事業をこれからもどんどん展開していただくことを期待している。両団体のシニア部門の方々には心豊かな高齢社会造りを目指すことを基本理念とし、地域 社会の希望に沿った各種イベントに今後も精力的に取り組んでいただきたい。

中島美津子, 福祉博士 

メリーランド大学福祉学部教授



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